「例のクルマはこれか」社長のT田章一郎はこうつぶやいただけで多くを語らなかった。
理想のレクサスの誕生をなによりも待ち望んでいた会長のT田英2も、黙って報告を聞くだけだった。
ただ、風洞実験でCd値が0.3を切ったという説明にデータの根拠を求めた。
積極的な肯定もなかった代わりに、否定もなかったプレゼンテーションで、チームはサイドシルエットなどデザインの基本的なコンセプトは変えず、クルマの顔に相当するフロントデザインや、エンジン性能、操縦安定性、サスペンションの仕上げに入ることにした。
「われわれは、具体的にデザインをどうしろと言うことはできない。
しかし欧米のぜいたくなホテルの正面玄関には、みごとな高級車がずらりと並んでいる。
メルセデス・ベンツやBMW、その他の有名ブランドが競演している。
そんな華やかな場で、われわれのF1がどう扱われ、どうみえるかが問題なのだ。
近寄って隅々までみても、いかにも日本のクルマらしく、日本のデザインらしくみえるまで、細部にわたってていねいに仕上げてほしい。
外国の高級車に混じって、存在を主張するには、無難で美しいだけでは不足なのだ」松本は、こう言って毒度の挑戦を促した。
「高級車では、機能が表に出てはいけない。
ユーザーの目にみえないところで機能を発揮させてくれ」SK主査も繰り返した.血のにじむ努力上司の言葉を背に、改めてデザインチームがモデルの改善に動き出した。
例えば、ドイツ車ではシートが固く、長時間乗車するとお尻がしびれるような感じがあった。
時速2百キロを超えるスピードで走るためにはある程度の固さは必要だが、米国ではそれほどのスピードで走らないからあまり固さは必要でない。
インテリア・デザイン部門のメンバーは、お尻にあたる感触がバランスよくフィットするよう、独自のポリエステル綿を使用したシートの開発に取り組んだ。
彼らはシート用の品質基準や縫い目のピッチにまで気を使い、内装用に使う合成樹脂の経時変化による色ずれを防ぐため、素材の原料の発注先を同一メーカーに絞って発注するようにした。
SKが米国の市場調査で気づいた、「やつれないクルマづくり」にも取り組んだ。
例えば、当時の国産車では、長年使用すると、メッキ部分のツヤの劣化が目立ち、古くなるとシミが出てくるものもあった。
これらの問題点に対し、開発チームでは、メッキのクロームの厚さを8倍にし、ステンレス部分にもクロームメッキしたり、車内のインテリアの劣化を防止するためにウィンドウに熱線反射グラスを取り付けて日光を反射させるなどの工夫を凝らした。
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